「オフィスの原状回復って、なにをどうすればいいのだろう?」
長年使っていたオフィスが手狭になった、テレワークが進み広いオフィスが必要なくなった、などの理由でオフィスの移転や閉鎖を考える方が増えています。
オフィスの移転や閉鎖を行う時、必ず必要になるのが原状回復です。
原状回復とは、賃貸物件の契約を終了した時に必要になる手続きのひとつです。
しかし、この原状回復がたびたび問題になっていることをご存知ですか?
不動産の契約には、さまざまな法律や国が定めたガイドラインがあります。
しかし、不動産業者やオーナーの中には、借り手側の知識が少ないことにつけこんで、退去時、不当に高額な原状回復費用を請求することがあるのです。
賃貸住宅の引っ越しの際、オーナー側から高額すぎる退去費用を求められた、という経験談はインターネット上に多数見られます。
国民生活センターが消費生活に関する苦情相談情報を収集しているPIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)に登録された賃貸住宅の敷金・原状回復トラブルについての相談件数も、毎年1万件以上に登ります。
年度 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 |
---|---|---|---|---|
相談件数 | 13,210件 | 12,499件 | 11,797件 | 11,156(前年同期10,962)件 |
相談件数は2021年3月31日現在(消費生活センター等からの経由相談は含まれていません)
データ出典:独立行政法人国民生活センター
さらに、オフィスの賃貸契約には、賃貸住宅とは違う点が多くあるため、賃貸住宅の引っ越しで得た知識をそのまま使えるわけではありません。
オフィスの移転や閉鎖は頻繁に行うものではないだけに、経営者の方や総務担当の方でもオフィスの原状回復を行った経験のある方は少ないのではないでしょうか?
交渉する貸し手側、ビルオーナーや管理会社は不動産のプロ。
知識がないまま、言われるがままでは、支払わなくてもいいお金を支払うことになるのでは?という不安も大きくなってしまいます。
この記事を読めば、あなたがオフィスの原状回復を行うことになった時、適切な流れでトラブルなく原状回復を行うことができるでしょう。
費用を最小限に抑えることにもつながります。
あなたが原状回復をトラブルなく行い、費用を最小限に抑えるための参考になれば幸いです。
Contents
1.オフィスの原状回復とは
オフィスの原状回復とは、簡単に言うと「オフィスを借りた時の状態に戻すこと」です。
では、借りた時の状態とは、どのような状態のことをいうのでしょうか?
例えばオフィスの場合、借りた時は内装がなにもない状態(スケルトン)だったものに、入居時に壁、床、照明を付けることがあります。
その場合は、自分たちで付け加えたものはすべて取り除き、借りた時の何もない状態に戻すまでが原状回復になります。
内装が新しく、照明やキッチンなどの水回りが最新のものに変えられて、借りた時よりもよい状態だったとしても、借りた時の状態と同じものに戻すことが必要なのです。
例えば以下のような工事を行い、借りた時の状態に戻しましょう。
- 造作した壁や間仕切りの撤去
- 自分たちで付けた天井のボードや照明の撤去
- パソコンや電気関係の配線の撤去
- トイレやキッチンなどの給排水設備の撤去
- 壁の張り替えまたは塗装
- 床材の交換または修繕
- 床、窓、ガラス、照明器具のクリーニング
では、スケルトン以外の場合、例えば小規模オフィスで壁や照明があらかじめ付けられている場合はどうなるのでしょうか?
内装済みのオフィスの場合もスケルトン物件と同様、借りた時の状態に戻すことが必要です。例えば追加で造作した壁、自分たちで置いた棚や机などの備品は撤去しましょう。あらかじめ付けられていた照明器具を自分たちで新しいものに取り替えた場合は、元の照明器具に戻します。
基本的には借りた時の状態にもう一度戻すのが、原状回復で行うべきものだと考えておくとよいでしょう。
では原状回復の費用は誰が負担するものなのでしょうか?
費用は一番気になるところですよね。
次は原状回復の費用について考えていきましょう。
2.オフィスの原状回復はどこまで借主が負担すべきか
オフィスの原状回復を行う時、一番気になるのは費用をどのくらい負担しなくてはいけないかということです。
オフィスの原状回復に関する費用は、誰がどのくらい負担するものなのでしょうか?
原状回復の費用は誰がどのくらい負担するのかについて解説していきましょう。
2-1.オフィスの原状回復は基本的に借主負担
オフィスの原状回復費用はそのほとんどが借主負担となります。
賃貸住宅の場合、壁紙の張り替えやハウスクリーニングの費用は一部負担することはあるものの、全額借主負担とはなりません。
なぜオフィスの場合は、原状回復費用のほとんどが借主負担となるのでしょうか?
それは、オフィスの契約時に、原状回復に関する費用を「借主が負担する」という内容の特約が結ばれているからです。
特約とは、特別の条件を伴った契約をすることです。
原状回復に関する特約とは、オフィスの入居時に結ぶ賃貸契約の時、原状回復に関する特別な条件を記載しておくことをいいます。
原状回復とは「借りた時の状態に戻すこと」です。
しかし、建物は誰も使わなかったとしても自然に劣化していきますし、普通に使用する分に関しては賃貸料を支払っているため使用する権利があると考えられます。
法律上では自然に劣化した分(経年劣化)と普通に使用して生じた損傷(通常損耗)は負担しなくてもよいのです。
しかし、オフィスの契約時に「原状回復に関する費用は借主が負担する」という特別な条件に合意していれば、その内容に従い、原状回復の費用を借主が負担します。
オフィスや賃貸店舗の場合、原状回復費用のほとんどを借主が負担するという特例が結ばれることがほとんどです。
そのためオフィスの原状回復費用は借主負担となるのです。
オフィスの原状回復費用が借主負担となる特例が結ばれる理由とは?
賃貸住宅は経年劣化や通常損耗が認められるのに対して、オフィスの原状回復費用は借主負担なる特例が結ばれるのは、住宅とオフィスの使い方の違いにあります。
賃貸住宅の場合、普通に住んでいれば生じる損耗や劣化が予想できるのに対して、オフィスは業務規模や仕事内容などによりどのような損耗・劣化が生じるかが予想できません。
そのため、退去時の修繕もどこまで必要かが貸主側もわからず、住宅と同様のガイドラインを適用していては貸主側の負担が大きくなりすぎることが予想されます。
それを防ぐために、通常損耗や経年劣化も原状回復に含めて借主が負担する、という特約が結ばれる商習慣があるのです。
2-2.オフィスの原状回復における主な特約の内容
オフィスの原状回復費用を借主負担とする特約には、どのような内容のものがあるのでしょうか?
原状回復費用を借主負担とする主な特約の内容についてみていきましょう。
よくみられる特約のひとつとして挙げられるのが、「退去時は壁紙の全面張り替えを行う」というものです。
この特約がない場合、原状回復で行うのは、借りている間に破れてしまったり、落ちない汚れを付けてしまった部分の壁紙の補修だけで大丈夫です。
しかしこの特約が結ばれていた場合、壁紙にまったく汚れも傷もない状態でも、全室全面張り替えを行わなくてはなりません。
他にも
- 床の全面張り替え
- 床のカーペットの全面張り替え
- 照明器具の取替え
- 天井の塗り替え
- 借主負担で行うハウスクリーニング
などの特約が結ばれていた場合は、原状回復の費用のほとんどを借主負担で行うこととなります。
原状回復費用をどこまで負担すべきかは、特約によって決まりますから、まずは契約内容に原状回復に関する記載があるか、ある場合はどのような内容なのかを確認してみましょう。
2-3.特例で借主負担とされていなければ貸主負担のケースもある
原状回復に関する特例が契約書に記載されてない場合は、原状回復に関する費用は借主負担となることもあります。
原状回復に関する記載が契約書に全くない場合は、住宅と同様に経年劣化と通常損耗を考慮した費用負担となります。
経年劣化とは、建物の価値が自然に落ちていくことで、壁紙の日焼けなどが当てはまります。
通常損耗は、建物を普通に使っていて生じる傷や汚れのことで、カーペットについた家具の跡などは通常損耗です。
オフィスの場合、特約が結ばれていないことはほとんどありませんが、もし記載がない場合はすべての費用を負担する義務はありませんから、しっかりと主張しましょう。
3.オフィスの原状回復にかかる費用
オフィスの原状回復は借主負担で行うとなると、気になるのはどれくらいの費用がかかるかという点です。
次はオフィスの原状回復費用の相場や、費用を左右する要素について見ていきましょう。
3-1.オフィスの原状回復費用の相場
オフィスの原状回復には、どれくらいの費用がかかるのでしょうか?
答えは「特約の内容、オフィスの広さ、設備によって異なる」です。
例えば床を全面張りかえるという特約がある場合とない場合では、工事費用が大きく変わります。
同様に、床を全面張り替えする場合、オフィスが広ければ広いほど費用は高額になっていきます。
オフィスの原状回復費用は賃貸住宅とは違い、契約内容によって工事内容が大きく異なるため一概にはいえません。
それを踏まえた上で、ある程度の目安となる金額を挙げるとすると、坪単価別で以下のようになります。
ビルの規模 | 広さの目安 | 坪単価 |
---|---|---|
小~中規模 | 100坪以下 | 2~5万円 |
大規模 | 100坪以上 | 5~10万円 |
ハイグレードビル | 100坪以上 | 10~50万円 |
一般的にオフィスの広さが100坪を超えると、原状回復工事の費用も上がります。
またビルのグレードに寄っても坪単価が変わってきますから、上の表はおおよその目安として考えておくと良いでしょう。
3-2.オフィスの原状回復費用を左右する要素
先ほども紹介したように、坪単価はおおよその目安です。
工事の範囲や内容によって、工事費用は目安よりも高くなることがあります。
原状回復費用を左右する要素としては他にも、
- ビルの築年数
- ビルの立地(都心か郊外か)
- 原状回復の指定業者が定められているかどうか
- 原状回復の範囲が曖昧かどうか
などが挙げられます。
例えば築年数ですが、築年数が浅いと最新の設備が入れられていることも多く、建物の価値も高いため、工事費用が高額になる傾向があります。
ビルの立地も原状回復費用を左右する要因です。都心部は郊外よりも工事の需要が高く、人件費も高くなるため工事費用が高くなってしまいます。
特約により原状回復の指定業者が定められている場合も費用が高くなる傾向があります。
指定業者があると、価格で競争する必要がないため、工事費用を高めに請求することがあるためです。
原状回復の範囲が曖昧であることも、工事費用を高くする要因です。
範囲が曖昧なままだと、必要以上の工事が含まれてしまい、費用が高額になってしまうのです。
あらかじめ原状回復の範囲をオーナー側と話し合い、明確にしておくと良いでしょう。
3-3.ハイグレードオフィスの場合は費用が通常より高くなるので注意
坪単価の目安の中でも、ハイグレードビルは坪単価がかなり高額になっています。
ハイグレードビルとは、大手デベロッパーが建築・運用している大規模な最新オフィスビルのことです。
ハイグレードオフィスの場合は、原状回復費用が同じ広さのオフィスよりも高額になります。
なぜならハイグレードオフィスの場合、設備が最新であったり、使われている床材や壁紙がグレードの高い物であることが多く、原状回復にかかる費用も高くなってしまいます。
またゼネコンと大手管理会社が間に入り、さらにその関連会社が工事を担当するなど、多重下請け構造になっていることが多いため、より高額になる傾向があるのです。
この他にも工事を行う時期や社会情勢など、様々な要因で原状回復の工事費用は変わっていきます。
坪単価はある程度の目安として考えた上で、提示された工事費用の見積もりをチェックしてみましょう。
4.オフィスの原状回復の流れ
原状回復の費用について理解できたところで、次はどのような流れで手続きを行えばいいのでしょうか?
オフィスの原状回復をスムーズに行うための流れを紹介します。
まずは下の図をみてください。
原状回復には大まかにわけて7つのステップがあります。
それぞれのステップについて詳しく紹介していきましょう。
4-1.退去決定・契約書を確認
様々な理由でオフィスを退去することが決めたら、まずは契約書を確認しましょう。
契約書では原状回復についてどのような取り決めがしてあるのか、特約をチェックすることが大切です。
なぜなら、契約内容を充分に確認しないまま工事を進めてしまうと、必要な工事が行われていない、逆に余分な工事を行ってしまった、といった結果につながってしまうからです。
例えば床のタイルは全面張り替えなのか、それとも摩耗した部分のみ補修するのか、壁紙は張り替え必須なのか、といった点を確認しておくことで、余分な工事を行うことがなくなります。
契約書では特に以下の様な点を確認しておきましょう。
- 原状回復を行うのはオフィス内だけなのか、共有部分も含まれているのか
- 原状回復工事を行う業者に指定はあるか
- 床、壁、天井の全面張り替えを借主負担で行う、など通常損耗や経年劣化に関わる記載はあるか
これらの内容は、原状回復の工事の範囲や費用に大きく関わってきます。
例えば床、壁、天井の全面張り替えを借主負担で行う、という記載があれば、通常損耗や経年劣化の費用負担を鑑みず、すべて借主負担で行うことが必要になるからです。
特約にどのような点が記載されているのか、そもそも原状回復に関する特約はあるのかを確認しておけば、今後の見積もりもスムーズに行えます。
曖昧な点がでてきたら必ず貸主に確認しよう!
契約書を確認していく中で、曖昧な点が出てきた場合は貸主に確認しましょう。
例えばエアコンの清掃を行う、という特約があった場合、借主が行うフィルター清掃でよいのか、それとも業者による配管を含めたエアコンクリーニングが必要なのかがわかりません。
工事前にきちんと原状回復工事の範囲を詰めておくことで、余分な工事費用を支払う可能性も少なくなります。
特約に曖昧な点があり、不安を感じた場合は法律の専門家に相談してみるのもおすすめです。
4-2.解約予告通知をオーナーに行う
退去を決めたら、解約予告通知をビルのオーナー側に行います。
解約予告通知は、一般的には6カ月前には行わないといけません。
通知が遅れると余分な家賃を支払うことになりますから、忘れずに行いましょう。
原状回復について曖昧な点がある場合は、この時点でオーナー側と話し合い、擦り合わせをしていきましょう。
4-3.工事を行う業者を探す
原状回復工事の内容が決まったら、どの業者にお願いするか選定します。
ここで注意したいのが、特約に指定業者がある場合です。
原状回復に関する特約の中には、原状回復を行う業者を貸主側で指定した業者に限定する、というものがあります。
業者の指定はよくあるもので、特約に記載されている場合、その業者以外にお願いすることはできません。
特約に指定業者がない場合は、自分で業者を選ぶことができます。
会社のサイトなどで、原状回復工事を多く手掛けている実績のあるところを選ぶと良いでしょう。
4-4.現地調査
工事を行う業者が決まったら、現地調査を行いましょう。
現地調査とは、工事を担当する担当者が実際にオフィスを見て、工事箇所や内容を把握することです。
現地調査なしで見積もりを出す業者もいますが、その場合ざっくりとした内容で金額を出すことになります。
その場合、工事業者としては赤字を出すわけにはいけませんので、多めの費用を提示してくるのです。
原状回復費用を必要最小限に押さえたい場合は、必ず現地調査を行い、どこまで工事するかをしっかりと擦り合わせたうえで見積もりを出してもらいましょう。
4-5.見積提示・確認
現地調査が終了したら、その内容をもとに施工を行う業者から見積もりを提示してもらいます。
見積もりが出たら以下のような点がないかチェックしていきましょう。
- ○○工事一式など曖昧な記載はないか
- 工事内容に特約に含まれていない部分が入っていないか
- 原状回復工事の中に共有部分など負担する必要のないエリアの工事は含まれていないか
- 工事日数、資材は相場よりも多すぎないか
不明点や疑問点があれば、必ず契約の前に業者に確認を行いましょう。
内容や金額がOKであれば、工事を依頼し契約を交わします。
4-6.契約・着工
見積もりに納得がいけば、実際に原状回復工事を行う業者と契約を交わし、工事をスタートさせます。
工事が開始された後は、定期的に業者から報告を受けて進捗状況や工事が適切に行われているかなどを確認していきましょう。
現場に足を運んで、工事の様子を確認するのも大切です。
その中で、疑問点や見積もりで提示された内容と違う点があれば指摘し、改善してもらいましょう。
4-7.施工完了・引き渡し
工事が完了する前に、必ず最終の現場確認を行ってから施工完了とします。
最終確認では、貸主や管理会社のスタッフにも立ち会ってもらい、原状回復工事がきちんと終了しているかをチェックしてもらうとよいでしょう。
最終確認がOKであれば施工完了となります。
貸主側に引き渡しを行って終了です。
5.原状回復工事をスムーズに行うスケジューリングのポイント
オフィスの原状回復工事をスムーズに行うには、きちんとスケジューリングすることが大切です。
なぜなら、原状回復工事には終わらせなくてはいけない期限が決まっているからです。
原状回復工事をスムーズに行うために知っておきたいスケジューリングのポイントについて紹介します。
5-1.オフィスの原状回復工事は契約期間内に終了させる
オフィスの原状回復工事のスケジューリングを行う時、最も大切なのは「いつまでに終わらせるか」ということです。
なぜなら、オフィスの原状回復工事は住宅とは違い、契約期間終了時までに終わらせなくてはならないからです。
賃貸住宅の場合、契約期間が終了した後にハウスクリーニングや原状回復工事が行われます。
しかし、オフィスの場合は契約期間内で原状回復工事を行い、工事が終了し借りた時の状態と同じ状態にしてからでないと、契約を完了することができないのです。
契約期間内に原状回復工事が終わっていない場合、工事が終わるまで日割りでオフィスの家賃を支払い続けなくてはなりません。
無駄な費用を増やさないためにも、原状回復工事は契約期間終了時点から逆算し、工事日数を確保できるようスケジューリングしましょう。
5-2.オフィスの原状回復工事の期間の目安を把握する
オフィスの契約期間内に原状回復工事を終了させるには、どれくらいの工事期間を確保しておくべきかを把握することも大切なポイントです。
なぜなら、工事期間がわかっていなければ、契約期間終了時点のどれくらい前に原状回復工事を始めればいいのかがわからないからです。
原状回復工事の日数が想定より長くなれば、契約期間終了時点に間に合わなくなります。
まずは工事に必要な期間の目安を把握しておきましょう。
オフィスの原状回復工事に必要な期間は、オフィスの広さや工事内容によって異なります。
おおよその目安は以下の表をご覧ください。
オフィスの広さ | 工事期間の目安 |
---|---|
小規模オフィス | 3日~15日 |
中規模オフィス | 1週間~2週間 |
大規模オフィス | 1ヶ月 |
中規模オフィスでスケルトンの状態に戻す場合は、1週間から2週間程度で工事が完了すると考えておきましょう。
スケルトンに戻すだけでなく、天井ボードの張り替えや壁紙の張り替えなどの工事が入る場合は、ここらから更に日数が増えていきます。
また大規模オフィスの工事期間の目安はおおよそ1ヶ月ですが、100坪を超える場合、さらに期間が長くなることもあります。
工事業者が現地調査を行い見積もりを取る際、おおよその期間も提示されますから、それに合わせて余裕を持った着工日を設定しましょう。
5-3.工事可能な日程を確認しておく
スケジューリングを行う前には、契約書で工事可能な日時に決まりがあるか必ず確認しましょう。
なぜならビルによっては、他の入居者に配慮し、工事の騒音による影響を考えて、原状回復工事が週末しかできないことになっている場合があるからです。
のべ6日間の工事が必要な場合で考えてみましょう。
平日も工事が可能なビルであれば、月曜から金曜の5日間と、翌週の月曜を使えば工事が完了します。
しかし、土日しか工事ができない場合、最初の週の土日、翌週、その翌週と3週間の期間が必要になるのです。
工事期間が6日間だからといって契約終了時の2週間前に工事を着工していては、契約期間を過ぎてしまいます。
工事可能な日程が限定されている場合、契約書やビルの規定に記載されています。
分からない場合は、管理会社や貸主側に確認できます。
あらかじめ考慮した上でスケジューリングを行いましょう。
5-4.解約予告通知は原状回復工事の見通しが立ってから行う
解約予告通知は原状回復工事の内容や期間の見通しがたってから行いましょう。
原状回復工事は、契約期間内に終了させる必要があります。
しかし、原状回復工事にかかる期間は、工事内容やオフィスの広さによって異なるため、解約予告通知を行ってから原状回復工事の内容を決めていると、契約期間内に工事が終了しない場合があるのです。
それを防ぐには解約予告通知を原状回復工事の内容や期間を工事業者と打ち合わせし、ある程度見通しがたってから行うことがポイントです。
工事期間の見通しが立っていれば、引き渡し日時をその後に設定することができます。
ただし、解約予告通知が遅くなると、解約できる日時が遅くなってしまうため、何カ月前までに通知を行えばよいのかをきちんと確認しておくようにするとよいでしょう。
5-5.オフィス移転の場合は引っ越し日程も含めてスケジューリングする
オフィスを移転する場合は、新オフィスに引っ越しをする日程を含めてスケジューリングしましょう。
なぜなら、原状回復工事を行えるのは新オフィスの移転後だからです。
オフィス内で引き続き使用するデスクや収納棚などを運び出し、オフィスを空にしてからでないと工事をスタートできません。
そのため、新オフィスの移転作業が遅れてしまえば、それだけ旧オフィスの原状回復工事の開始時期も遅れてしまうのです。
オフィス引っ越し後、原状回復工事が終わり旧オフィスを引き渡しできるまでの期間は、新旧オフィスの家賃が同時に発生します。
経費を削減するためにも、新オフィス移転作業についても考えたスケジューリングを行うようにしましょう。
6.オフィスの原状回復費用を抑える3つの方法
オフィスの原状回復工事には、少なくないお金が必要になります。
支払うお金はなるべく少なくしたいもの。
オフィスの原状回復にかかる費用を抑えるにはどうすればいいのでしょうか?
オフィスの原状回復費用をなるべく抑えるためには、次の3つの方法がおすすめです。
- 見積もりに曖昧な部分はないか確認する
- 余分な工事が含まれていないか確認する
- 複数の業者に見積もりをとる
それぞれについて詳しく紹介していきましょう。
6-1.見積もりに曖昧な部分はないか確認する
原状回復費用を抑えるためにまず行いたいのが、見積もりを確認し、曖昧な部分があればはっきりさせていくことです。
例えば見積もりの中に「会議室工事一式」など範囲が曖昧なものがある場合、必要でない工事の分が含まれてしまっている可能性があります。
見積もりの内容は、クロス張り替え工事○○円、タイルカーペット交換○○円、などどの作業にいくらかかるのかを詳細に記載してもらうことが大切です。
見積もりの内訳を詳細にすることで、必要でない工事が含まれているかどうかが判断しやすくなります。
まずは見積もりのあいまいな部分をなくし、工事範囲とそれにかかる費用をはっきりさせておきましょう。
6-2.余分な工事は含まれていないか確認する
見積もりに曖昧な部分がなくなったら、次は負担すべきではない余分な工事が含まれていないか確認します。
例えば
- ビルのエレベーターやトイレなどの共有部分の補修工事
- 部分修繕でよいところを全面修繕する
- カーペットや壁紙のグレードアップ
- 空調や電気設備などを環境対応型省エネ設備にグレードアップ
といった項目が合った場合、これらは原状回復の対象ではありません。
原状回復の範囲はあくまで「借りた時の状態へ戻すこと」です。
例えば床を全面張り替える場合、借りた時よりもグレードアップした床材を使うことは原状回復の範囲を超えています。
特約で「通常損耗、経年劣化も原状回復工事に含める」ということが明記されていない場合は、オフィスであっても通常損耗や経年劣化を考慮した上で費用負担を行います。
通常損耗や経年劣化と認められる部分まで見積もりに含まれていないかも確認しておきましょう。
6-3.複数の業者に相見積もりをとる
複数の業者に相見積もりをとることで、工事費用を抑えることができます。
原状回復工事は、貸主指定の工事業者で行わなくてはならない場合がよくあります。
指定の業者がある場合、価格で競争する必要がないため、高めの費用を請求される傾向にあります。
貸主側は費用負担しないため、価格が高くても引き続き工事を受注することができるからです。
指定業者の見積もりが高いと感じた場合、他の業者の見積もりと比較することで、適正価格なのかがわかりやすくなります。
比較する時のポイントは、工事内容は同じ範囲、同じ内容になっているかを確認しておくことです。
見積もりが安くても、必要な工事が含まれていなければ最終的な費用が見積もりよりも上がってしまうことがあるからです。
金額に不安がある場合は、違う業者にも見積もりをお願いしてみましょう。
7.【Q&A形式で回答】オフィスでよくある原状回復のトラブル
オフィスの原状回復は頻繁に行うことではないだけに、よくわからないまま進めてしまうことがあります。
知識がないだけに、貸主側からの要求が不当に大きすぎるのかどうかわからず、不安になってしまうこともあります。
不安をそのままにしておくと、原状回復をスムーズに行うことができず、トラブルにつながってしまうこともあるのです。
トラブルを防ぐために、オフィスの原状回復で起こりがちなトラブルの例と解消法をQ&A方式で紹介していきます。
Q.指定業者を変更することはできる?
契約書に原状回復工事はビルオーナー指定の業者で行う、とあり、指定業者で見積もりをとったけれど、予想よりも高額な費用を提示されている。
もう少し安くできる工事業者に変更することはできないだろうか?
A.
契約書に指定業者が原状回復工事を行う、という記載がある場合は、他の業者にお願いすることはできません。
ただし、提示された見積もりに不明な点があるのであれば、交渉することは可能です。
まずは見積もりの内容を確認し、工事範囲や内容が正しいかをチェックしてみましょう。
見積もりに曖昧な点がある、工事一式、などざっくりとした見積もりになっている、等の場合は細かい工事内容や費用を出すように交渉してみます。
それぞれの工事費用が適正かどうかは、解体や清掃などの専門家に相談してチェックしてもらうとよいでしょう。
Q.1年弱の入居期間で床の全面張り替えは必要?
オフィスを借りた期間は1年弱と短期間で、床もほとんど汚れなどはなくきれいな状態。
特約には「退去時は床タイルを全面交換する」とあるが、必要ないのでは?
A.
契約書に「退去時は床タイルを全面交換する」という記載がある場合は、借りた期間が短くても長くても、基本的には全面張り替えが必要になります。
ただし、汚れがほとんどない場合など、張り替えではなくハウスクリーニングにしてもらえないかと、貸主側に交渉することは可能です。
一度相談してみるのもよいでしょう。
Q.オフィスでボヤ騒ぎがあり、壁紙が煤で汚れてしまった時はどうなるの?
契約書には壁紙や床材などの全面張り替えなどは記載されていない。
喫煙コーナーでボヤ騒ぎがあり、壁紙が煤で汚れてしまった。
煙の匂いなども残っている状態。
壁紙の張り替えや消臭・脱臭の作業は原状回復工事に含めるのだろうか?
A.
火災など借主側の過失による破損、汚れは借主側の負担で原状回復工事を行わなくてはなりません。
ボヤを出して壁紙を煤で汚してしまったのは、借主側の過失によるものです。
煤の汚れは普通に使っていて付くものではないため、通常損耗には含まれません。
そのため、特約に通常損耗や経年劣化に対する記載がなくても、煤で汚れた部分の壁紙をクリーニングや張り替えを行い、元の状態に戻す必要があります。
また煙の臭いが残っている状態も、過失により建物の価値を下げてしまっているため、借主の負担で消臭・脱臭の作業を行わなくてはならないのです。
火災が原因の消臭や脱臭は、普通の工事業者では行えない場合もありますので、専門業者にお願いするのがよいでしょう。
当社リスクベネフィットは、小規模な火災から大規模な火災まで対応可能な火災現場清掃のスペシャリストです。火災が原因の消臭や脱臭についてお困りの際は、一度、ご相談ください。
8.まとめ
いかがでしたでしょうか?
オフィスを退去する時、原状回復は行わなくてはならない義務です。
しかし、借主側が負担すべき範囲は法律や契約書の特約などで決まっており、必要以上に費用を負担する必要はありません。
まずは契約書に記載されている内容を確認し、自分たちがやらなくてはならない原状回復の範囲についてしっかりと確認しておきましょう。
原状回復について
- オフィスの原状回復とは、「借りた時の状態」に戻すこと
- オフィスの原状回復にかかる費用はほとんど借主負担になる
- 住宅と同様に通常損耗・経年劣化は借主負担にならないと法律で定められているが、特約で借主負担となっている場合は特約が優先される
原状回復費用の相場は坪単価別
オフィスの広さ | 坪単価の目安 |
---|---|
小規模オフィス | 2~5万円 |
中規模オフィス | 4~8万円 |
大規模オフィス | 8~12万円 |
ハイグレードビルオフィス | 15~20万円 |
以下の条件に当てはまると、原状回復費用は高くなる
- 築年数が浅いビル
- 都心部
- 内装や設備のグレードが高いビル
- 広さ300坪以上
原状回復の流れは以下の通り
- 退去決定・契約書を確認
- 解約予告通知をオーナーに行う
- 工事を行う業者を探す
- 現地調査
- 見積提示・確認
- 契約・着工
- 施工完了・引き渡し
原状回復工事のスケジューリングは、契約期間終了時点から逆算して行う
原状回復工事は、オフィスの契約期間内に終了させる
原状回復のスケジューリングを行う時のポイント
- 原状回復工事は契約期間終了時までに終わらせる
- 工事にかかる日数を把握しておく
- 工事可能な日程を確認しておく
- 解約予告通知は原状回復工事の見通しが立ってから行う
- オフィス移転の場合は新オフィス引っ越し後に原状回復工事を行う
原状回復費用を抑えるには
- 見積もりに曖昧な部分はないか確認する
- 余分な工事が含まれていないか確認する
- 複数の業者に見積もりをとる
この記事を読んで、原状回復工事をトラブルなくスムーズに行うお役に立てていただければ幸いです。