原状回復の基本ルールは、「入居時の状態に戻すこと」です。
ただし、店舗をはじめとする事業用物件の場合、賃貸借契約書の内容をもとに原状回復の範囲を決めることが多く、退去に際し、かなり大掛かりな工事が必要になるケースもあります。
実際、
「借りていた店舗の退去にあたり、原状回復費用として500万円請求された」
「居抜きで借りた店舗なのに、スケルトン状態にして退去するよういわれた」
なんてケースは、珍しくありません。
物件オーナーとのトラブルを避け円満に退去するには、原状回復の基本ルールについて理解しておくことが必須です。
また、契約書通りの工事をすると高額な費用を請求されるようなケースでも、物件オーナーとの交渉次第では、原状回復にかかる費用を大幅に安く抑えることが可能です。
そのため、店舗からの退去にあたっては、原状回復の基本ルールに加え、原状回復にかかる費用を抑えるための交渉術についても、知っておきたいところです。
この記事を読めば、店舗の退去に際し、なにをどこまで原状回復する必要があるのか、原状回復にかかる費用を抑えるにどう行動すればいいのか、明確になるでしょう。
物件オーナーとの交渉も、スムーズに進められるはずです。
Contents
1.店舗の原状回復について知っておくべきルール一覧
借りていた店舗から退去する場合、原状回復工事が必要になります。「原状回復」とは、物件の賃貸借契約終了に際し、その物件を元の状態(原状)に戻す(回復)ことをいいます。
ただ、店舗の原状回復をめぐっては、その範囲や費用などに関して、物件オーナーとトラブルになるケースが少なくありません。
物件オーナーとのトラブルを防ぎ円満に退去するには、店舗の原状回復に関する基本的なルールを知っておくことが必須です。そこでまずは、店舗用物件から退去するにあたって知っておくべき、原状回復に関する基本ルールについて解説します。
1-1.原状回復の原則は「入居したときの状態に戻す」こと
原状回復は、「入居したときの状態に戻す」ことを原則としています。そのため、店舗の借主は物件から退去する際、入居時の状態に戻すために必要な範囲において、原状回復工事をしなければなりません。
例えば、借主が照明やカウンター、棚などを設置している場合、これらをすべて撤去しなければなりませんし、天井や壁、床などが傷んでいる場合は修繕工事が必要になります。
また、スケルトン状態の物件を借りた場合、退去時には解体作業や内装工事をして、再びスケルトン状態に戻すのが原則です。スケルトン状態に戻すには、外壁や屋根、柱、梁、といった基本構造以外をすべて撤去する工事が必要になります。
1-2.契約書を確認!物件ごとに異なる原状回復義務の範囲
入居時の状態に戻すのが原状回復の原則ですが、店舗用物件すべてにこの原則が当てはまるのかというと、そうとも限りません。
というのも、店舗のような事業用物件では、退去時における原状回復の範囲について、賃貸借契約書の中で詳細に定めることが一般的です。そして、こういったケースでは、賃貸借契約書の内容をもとに原状回復の範囲を判断することになります。
つまり、店舗の原状回復の範囲は物件によって異なり、単に元の状態に戻しただけでは不十分な場合があるのです。
例えば、飲食店をオープンするため居抜き物件に入居した場合、「入居時の状態に戻す」だけならば修繕工事をするだけで足り、内装や設備についてはそのまま残しておいても問題ないように思えます。しかし、賃貸借契約書の原状回復に関する取り決めの中で「スケルトン状態にする」と約定されている場合は、その内容通りの原状回復工事をしなければなりません。
借主としては納得しにくいところかと思いますが、入居時に交わした契約書に記載されている以上、原則として、その内容の通りに原状回復しなければならないのです。
店舗の原状回復について、「自分が借りている物件はどんな契約になっているのだろう」と疑問に想ったら、賃貸借契約書の内容を確認しましょう。
それにより、原状回復の範囲が明確になるのはもちろん、原状回復工事の内容や費用について物件オーナーと交渉する場合にも、スムーズに進められるはずです。
1-3.店舗用物件と居住用物件で異なる「経年劣化」の考え方
一般に、店舗をはじめとする事業用物件の原状回復では、通常消耗や経年劣化について考慮されません。消耗や劣化の有無にかかわらず、あくまでも契約書の内容通りに原状回復しなければならないケースがほとんどです。
この点、居住用物件とは取扱いが異なるため、違和感を覚える方も多いでしょう。
賃借人の原状回復義務について民法は、入居後に生じた損傷がある場合は原状回復する義務があるとしつつ、通常消耗や経年劣化については対象外とする旨、規定しています。実際、居住用物件では通常消耗・経年劣化について、借主が修理する必要はありません。
民法第621条(賃借人の原状回復義務)
引用:民法| e-Gov法令検索
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
店舗用物件と居住用物件でこのような違いがあるのは、通常消耗や経年劣化の範囲が予測可能かどうか、ということによります。居住用物件の場合、通常消耗や経年劣化の範囲について予測できるため、その修理代については家賃に組み込むことが可能です。
これに対して店舗用物件の場合、不特定多数の人が利用するうえ、業態によってその使い方が異なるため、通常消耗や経年劣化の予測が困難です。
そのため、店舗用物件では損耗や劣化の有無に関係なく、賃貸借契約書の内容通りの原状回復工事が求められるのです。
1-4.店舗の原状回復に必要な工事の種類
店舗の原状回復に必要な工事には、以下の5種類があります。
工事の種類 | 施工内容 |
---|---|
内装解体工事 | 間仕切り壁やカウンターなどの解体 |
修繕工事 | 天井、壁紙、床などの損傷の修理、張り替えなど |
設備工事 | ダクト設備、ガス管、電気周りの配線などの修復 |
スケルトン工事 | 建物の構造体のみを残しすべてを解体 |
廃棄物処理 | 原状回復工事で生じた廃棄物を処理 |
どの工事が必要になるかは、業種や店舗内の設備、原状回復が必要な範囲などによって異なります。
例えば、原状回復に関する契約において、「設備をすべて撤去したうえで天井、壁紙、床をすべて張り替えること」と約定されていた場合、内装解体工事、修繕工事、設備工事、廃棄物処理、の4つが必要になります。
どの工事が必要でそれにどのくらいの費用がかかるのかを明確にするためにも、まずは原状回復の範囲を確定させることが重要です。
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店舗の使用状況や業態によっては、これらの他に、特殊な工事が必要になるケースがあります。例えば、猫カフェを運営し店舗内で沢山の猫を飼育していた場合、通常の原状回復工事に加え、消臭作業も求められるでしょう。
ペット特有の臭いは、一般的なクリーニングで取り切れないことが多く、完全消臭をするには特殊な技術が必要になります。
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2.【業種別】店舗の原状回復工事にかかる費用の目安
店舗の原状回復工事にかかる費用は、業種や店舗の広さによって異なります。ここでは、主な4業種について、業種別・店舗の広さ別に原状回復工事にかかる費用の目安をご紹介します。
2-1.オフィスの原状回復工事にかかる費用の目安
ハイグレードビルは一般的な物件に比べ、工事にかかる費用が高くなる傾向にあります。自動昇降機能付きの照明を設けたり、重役室に暖炉を設置したり、というように特殊な内装工事をしている場合も、工事費用が通常より高くなります。
具体的に試算してみましょう。
例)オフィスとして利用していた50坪の物件を原状回復する場合(特殊な設備、内装なし)
原状回復工事の坪単価を6万円として計算すると、工事費用は300万円になります。これに、事務机やキャビネット、応接テーブル、ソファーといった備品の処分費用、工事の廃棄物処理費用などがプラスされますので、少なく見積もっても400万円ほどの費用がかかると予想されます。
2-2.飲食店の原状回復工事にかかる費用の目安
借りていた店舗が商業施設内の物件である場合、工事の時間を夜間のみに制限されたり、管理者の常駐を求められたりすることがあります。そういった場合は、工事費用が通常よりも30~50%ほど高くなるため、注意が必要です。
また、排気ダクトの汚れがかなりひどい場合は、クリーニングやメンテナンスにかかる費用を追加請求される可能性があります。
具体的に、試算してみましょう。
例)飲食店として利用していた、商業施設内にある30坪の物件を原状回復する場合
一般に、商業施設内の原状回復工事は指定業者によることが多く、工事の坪単価も一般的な物件に比べて高い傾向にあります。そこで、ここでは工事の坪単価を5万円と仮定しましょう。多くの商業施設は工事時間が夜間や早朝のみに制限されますので、通常の工事費用に時間外割増50%を加算します。すると、原状回復工事にかかる費用は225万円となります。
これに、テーブルやイスといった備品の処分費用、廃棄物処理費用などをプラスすると、原状回復には300万円以上の費用がかかる計算になります。
30坪というさほど広くない店舗でも、物件によっては原状回復にかなり高額な費用が必要になることがあるのですね。
2-3.小売店の原状回復工事にかかる費用の目安
小売店の原状回復工事は、天井や壁、床などの表層材を張り替えるだけで済む場合も多く、設備工事が必要な飲食店に比べて工事費用が安い傾向にあります。ただし、ハイグレードビルの店舗を借りている場合や造作物をたくさん設置している場合、商業施設内の店舗で工事時間が制限されている場合などは、工事費用が通常よりも高くなります。
具体的に、試算してみましょう。
例)雑貨屋さんとして利用していた20坪の店舗を原状回復する場合
小売店の原状回復は内装解体工事と修繕工事で済むことも多く、他業種に比べると工事の費用が安い傾向にあります。そこで工事の坪単価を3万円と仮定しましょう。そうすると、原状回復工事にかかる費用は60万円、これに陳列棚などの備品の処分費用や廃棄物処理費用など40万円をプラスすると、原状回復には100万円ほどかかる計算になります。
他業種の試算例に比べると安いようにも思えますが、退去に際して100万円の出費が必要になるのは、かなりの痛手ですよね。
2-4.美容室やサロンの原状回復工事にかかる費用の目安
美容室やサロンはシンプルな構造の店舗が多く、原状回復にかかる費用を安く抑えられる傾向にあります。ただし、排気ダクトを多く設置していたり、個室や小上りがあるなど複雑な構造になっていたりする場合は、工事にかかる費用が通常よりも高くなりがちです。
具体的に、試算してみましょう。
例)美容室として利用していた40坪の店舗を原状回復する場合(個室、小上りあり)
個室、小上りがあるなど物件の構造が複雑になっていると、原状回復工事の費用が通常よりも高くなりがちです。また、シャンプー台や床に固定されているイスが沢山ある場合、設備工事にかかる費用も高くなります。そこで、ここでは工事の坪単価を7万円と仮定しましょう。
そうすると、原状回復工事費用は280万円となります。これに、備品の処分費用や廃棄物処理費用など50万円をプラスすると、原状回復には330万円ほどの費用がかかる計算になります。
移転のために現店舗から退去する場合、ただでさえ新店舗オープンのために多額の費用がかかるところ、現物件の原状回復に300万円以上の費用がかかるというのは、かなり辛いですよね。
3.店舗の原状回復工事にかかる費用を抑えるために有効な方法
上の試算例でもわかるように、小さな店舗でもその原状回復には、100万円以上の費用がかかることがあります。これが大きな店舗であったり商業施設内の店舗であったりする場合、その費用はさらに高くなるでしょう。100坪以上の広い店舗では、原状回復に1,000万円以上かかる場合もあります。
店舗の原状回復にかかる費用は全額借主負担が原則ですので、退去するにあたっては、借主側でその費用を工面しなければなりません。
そこで、ぜひ実践したいのが、原状回復費用の縮小です。
原状回復にかかる費用を抑えるには、以下の3つの方法が効果的ですので、ぜひチェックしてください。
3-1.物件オーナーとの交渉により原状回復の範囲を縮小する
原状回復にかかる費用を抑えるうえで最も効果的なのが、「原状回復の範囲の縮小」です。物件オーナーに、原状回復の範囲を縮小できないかどうか交渉してみましょう。
一般に、店舗の原状回復工事にかかる費用は、原状回復の範囲が広くなればなるほど高くなります。例えば、修繕工事のみで原状回復をする場合とスケルトン工事をする場合では、その費用に数百万円の違いが生じるケースもあるのです。
そこで重要になってくるのが、物件オーナーとの交渉です。
交渉によって原状回復の範囲を縮小できれば、その分だけ工事にかかる費用を抑えられるからです。場合によっては、原状回復の費用を数百万円単位で縮小できるかもしれません。
原状回復の範囲を縮小するには、居抜き物件として賃貸してもらうよう交渉したり、設備を残せないか交渉したり、原状回復の方法について交渉したり、というように、いくつかの交渉術があります。
原状回復の費用を安く抑えるには、物件オーナーへのアプローチの仕方、交渉の進め方がとても重要です。その交渉方法については、「4. 費用を抑えるために知っておきたい!物件オーナーとの交渉術」で詳しく解説しますので、必ずチェックしてください。
3-2.指定業者以外で工事可能かどうか確認する
店舗の原状回復では、物件オーナーが指定業者を決めていることが一般的です。ただ、中には指定業者以外に工事の発注が可能なケースもありますので、一度確認してみましょう。
指定業者以外に発注可能なのであれば、複数社に見積もりを依頼し、その中からより安い費用で工事を受注してくれる業者に変更することで、工事にかかる費用を大幅に抑えられる可能性があります。
例えば、50坪の店舗の原状回復にあたり、指定業者から提示された工事の坪単価が10万円であるところ、坪単価8万円で工事をしてくれる業者を見つけられれば、原状回復工事にかかる費用を100万円も安くできます。
工事の内容が同じでも業者を変えるだけで費用を大幅に節約できる、というケースは少なくありません。「指定業者があるのだからそこに工事を依頼するほかない」と最初から諦めてしまわず、まずは、別業者への発注が可能かどうか、物件オーナーと交渉してみることが大切です。
3-3.相見積もりをとり価格交渉をする
物件オーナーから提示された工事費用が高額である場合、別の業者に見積もりを依頼し、その金額をもとに価格交渉をしてみましょう。物件オーナーと別の業者の提示金額に大幅な差がある場合、交渉によって工事費用を抑えられる可能性があります。
工事の見積もりは、複数社分あったほうが説得力が増します。1社の見積もりを提示しただけでは、「一番安い業者を探してきただけだろう」と交渉に応じてもらえない可能性があるからです。借主側から提示した金額が「相場」であることを示すためにも、最低3~5社に見積もりを依頼することをおすすめします。
4.費用を抑えるために知っておきたい!物件オーナーとの交渉術
店舗の原状回復にかかる費用を抑えるうえで最も大きな効果が期待できるのが、物件オーナーとの交渉です。交渉次第では、退去時にかかる費用を数百万円単位で減額できることもあるからです。
物件オーナーとの交渉では、下記3つの切り口でのアプローチが効果的ですので、実践してみましょう。
4-1.居抜き物件として賃貸できないか交渉する
原状回復にかかる費用を大幅に安くできる可能性があるのが、店舗を「居抜き物件として賃貸してもらう」という方法です。
「居抜き」とは、前の店舗の設備や什器を残したまま、次の借主に賃貸する形態のことをいいます。例えば、前の店舗が飲食店であった場合、次の借主は、調理設備はもちろん、テーブルやイス、カウンターなどをすべて残した状態の物件に入居することになります。
そのため現借主は、店舗の原状回復をする必要がありません。店舗の使用状況や物件オーナーとの交渉次第で、傷みがひどい部分の修繕工事や店舗のクリーニングなどを求められる可能性はありますが、原状回復の必要がないとなれば、工事にかかる費用を大幅に削減できるでしょう。
具体的に、シミュレーションしてみます。
まずは、店舗からの退去にあたり、スケルトン工事をする場合について考えてみましょう。
この場合、原状回復にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか。
例)飲食店として利用していた50坪の店舗からの退去にあたり、スケルトン工事をする場合
原状回復工事の坪単価を6万円とすると、工事に300万円かかります。これに、備品の処分費用や廃棄物処理費用など100万円をプラスすると、原状回復のために400万円もの費用がかかる計算になります。
次に、退去する店舗を次の借主に居抜きで賃貸してもらう場合について考えます。
例)飲食店として利用していた50坪の店舗から退去するが、その物件を居抜きで賃貸する場合
居抜き賃貸では前店舗の設備や什器はもちろん、内装などもそのままの状態で退去することが可能です。したがって、原状回復工事にかかる費用は原則として0円です。
本来ならば数百万円の費用がかかる原状回復工事ですが、物件オーナーとの交渉次第では、これを0円にできる可能性があるのです。
また、居抜きでの賃貸は、借主だけでなく、物件オーナーや新借主にとってもメリットのある形態です。
居抜きの場合、次の借主も同業者の中から探す必要はありますが、近年は居抜き物件への需要が高まっていますので、交渉してみる価値はあるでしょう。
【居抜きで賃貸するメリット】
居抜きとして賃貸することに物件オーナーが難色を示した場合、次の借主を自分で探してみるのもひとつの方法です。
物件オーナーが居抜きでの賃貸に難色を示す理由としては、
- 次の借主候補が同業者に限定されてしまう
- 居抜き賃貸だと、内装や設備が気に入らない、といった理由で次の借主が見つかりにくいかもしれない
- 新借主の入居後に設備の故障などが見つかり修繕工事を要求されるなど、トラブルになる可能性がある
といったことが考えられます。
この点、現借主みずから新借主を探せば、上記①②の理由はクリアできますし、③についても現借主、新借主、物件オーナー、三者立ち合いのもと内装や設備の状態をしっかり確認することで、後のトラブルを予防できます。
新借主が見つかっているということであれば、物件オーナーが交渉に応じる可能性はかなり高くなりますので、同業者の知り合いをあたるなどして、居抜きで入居してくれる人を探してみてはいかがでしょうか。
4-2.残してもいい設備はないか交渉する
店舗内に様々な設備があり、その撤去に多額の費用がかかる場合、残してもいい設備がないか、物件オーナーと交渉してみることをおすすめします。
例えば、テナントの負担でトイレを和式から様式に改装していたり、LED照明を設置していたりする場合、物件オーナーとの交渉により、その部分については残せる可能性があります。
多くの設備を残すことができれば、原状回復にかかる費用を大幅に抑えられるでしょう。
賃貸借契約書に「退去時はスケルトン状態にする」と記載されている場合でも、交渉次第では複数の設備を残せる可能性があります。まずは、物件オーナー立ち合いのもと、残せる設備があるかどうか交渉してみましょう。店舗内にある設備を予めリストアップしておくと、交渉をスムーズに進められます。
4-3.原状回復の方法について交渉する
居抜きでの賃貸や設備を残すことに同意してもらえない場合でも、原状回復の方法について交渉することで、退去時にかかる費用を抑えられる場合があります。
例えば、賃貸借契約書の中で、「退去時は天井、壁、床、すべてを張り替える」と約定されている場合、借主は退去にあたり、約定通りに原状回復しなければならないのが原則です。ただ、使用状態がよく室内がほとんど傷んでいない場合、物件オーナーとの交渉によって、総張り替えではなく、部分的な修繕工事のみで了承してもらえる可能性があります。
具体的に、シミュレーションしてみましょう。
まずは、賃貸借契約書の約定通り、天井・壁・床をすべて張り替える場合について考えてみます。
原状回復にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか。
例)オフィスとして利用していた30坪の店舗の原状回復のため、天井・壁・床をすべて張り替える場合
このケースでは大掛かりな工事が必要になりますので、天井、壁、床の張り替え費用をそれぞれ40万円として、120万円かかる計算になります。
次に、総張り替えではなく、部分的な修理で対応する場合について考えます。
原状回復には、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。
例)オフィスとして利用していた30坪の店舗の原状回復にあたり、傷んでいる壁と床を部分的に修理する場合
修繕工事の価格の決め方は業者によって異なりますが、傷の程度に関係なく作業時間で決める会社が多いようです。
そこで、作業の基本料金を3万円/1日として計算し、修繕工事に5日間かかったとすると、原状回復にかかる費用は15万円となります。
もちろん、これは使用状態の良い店舗を想定したシミュレーションですが、店舗の使用状態によっては、物件オーナーとの交渉により原状回復の方法を変更することで、その費用を大幅に安くできることがわかります。
原状回復の範囲を縮小することが難しい場合でも、その方法について交渉する余地はありますので、諦めずアプローチしてみましょう。
5.物件オーナーとのトラブルを防ぐために注意すべきポイント
店舗の原状回復をめぐっては、物件オーナーとトラブルになったり、話し合いがうまくいかず裁判に発展してしまったりするケースも少なくありません。そこで注意したいのが、下記4つのポイントです。
5-1.退去が決まったらスピーディーな行動を
物件オーナーとのトラブルを防ぐには、退去決定後、可能な限りスピーディーに行動することが大切です。
店舗から退去する場合、下記4つのプロセスを、約定の退去日までに完了させなければなりません。
この中では、原状回復の範囲について物件オーナーとの話し合いが必要になることがありますし、原状回復工事開始後、思わぬアクシデントにより作業が予定通り進まない可能性もあります。そうすると、約定の退去日までに原状回復工事が間に合わず、違約金や遅延損害金などを請求されることにもなりかねません。
原状回復工事に多額の費用がかかるうえ、違約金や遅延損害金まで請求されてしまっては大変です。
居住用物件のような感覚でのんびり行動していると、退去日までに工事が完了せず、物件オーナーとトラブルになる可能性がありますので、退去が決まったら、早め早めの行動を心がけましょう。
5-2.原状回復の範囲について詳細に確認する
店舗からの退去にあたっては、原状回復の範囲について物件オーナーに細かく確認することが大切です。
【原状回復の範囲に関する確認リスト】
原状回復の範囲については賃貸借契約書に記載されていますが、内容があいまいでわかりにくいケースも少なくありません。そして、物件オーナーと借主の間に認識の違いがあるまま原状回復工事を進めると、深刻なトラブルに発展することもあります。
スケルトン状態や居抜きでの退去でない場合、原状回復の範囲に関するトラブルが生じやすい傾向にありますので、特に注意が必要です。
5-3.工事の見積もりは物件オーナー・借主の立ち合いで
原状回復に関するトラブルを防ぐには、物件オーナーと借主、双方立ち合いのもとで、工事の見積もりをしてもらいましょう。
工事業者・物件オーナー・借主の三者がそろった状態で工事の見積もりをすることで、「本来は借主が負担する必要のない工事まで発注された」「工事が終わった後に、原状回復が不十分であると指摘された」
といったトラブルを予防できるからです。
店舗をはじめとする事業用物件では、指定業者による原状回復工事が行われることが多いのですが、その場合も、見積もり時に立ち合い可能かどうか交渉してみましょう。
5-4.原状回復工事の見積もりをとり費用の相場を知っておく
店舗からの退去が決まったら、複数の業者に原状回復工事の見積もりを依頼しましょう。
原状回復に関するトラブルの中でも特に多いのが、「想定していた金額よりも高い費用を請求された」というものです。提示された金額が相場よりも明らかに高額な場合、他社の見積もりをもとに工事金額について交渉できる可能性があります。
指定業者以外での工事が認められないケースでも、工事費用の相場を知っておけば価格交渉をする際の武器になります。退去が決まったら、借主自ら複数の業者に依頼し、原状回復工事の見積もりを取っておきましょう。
6.物件オーナーとトラブルになった場合の対処法
細心の注意をはらっていても、原状回復に関して物件オーナーとトラブルになってしまう可能性はあります。では、そういった場合に最小限のストレスでトラブルを解決するには、どのように行動すればいいのでしょうか。
最後に、物件オーナーとトラブルになってしまった場合の対処法について解説します。
6-1.まずは契約書をもとに物件オーナーと話し合い
原状回復に関して物件オーナーとトラブルになった場合、まずは賃貸借契約書をもとに話し合いましょう。
【賃貸借契約書に基づく話し合いが有効なトラブル例】
店舗などの事業用物件は、賃貸借契約書の記載内容をもとに原状回復の範囲を決めることが一般的です。約定の範囲を超えた原状回復工事を求められるなど、契約書の記載内容と異なる要求をされた場合は、物件オーナーとの間で契約内容について再度確認することで、トラブルを解決できる可能性があります。
6-2.専門家に相談する
物件オーナーとの話し合いがスムーズに進まない場合は、専門家に相談することをおすすめします。
【専門家への相談が有効なトラブル例】
原状回復工事を得意とする業者や法律の専門家である弁護士を交えて交渉することで、トラブルの早期解決が期待できます。
7.まとめ
この記事では、「店舗の原状回復」について解説しました。
店舗からの退去に際して、原状回復の範囲をどのように決めるのか、原状回復工事にはどのくらいの費用がかかり、これを安く抑えるにはどのような方法が効果的なのか、お分かりいただけたかと思います。
店舗から退去するにあたり借主がとるべき行動は、以下の通りです。
このなかでも特に力を入れて取り組みたいのが、物件オーナーとの交渉です。
- 次の借主に居抜きで賃貸してもらえないか
- いくつかの設備を残せないか
- 新品への交換ではなく修繕で対応できないか
上記の点について交渉することで、原状回復の範囲を縮小し、退去時にかかる費用を大幅に減額できるかもしれません。
店舗からの退去が決まったら、賃貸借契約書をよく確認して原状回復の範囲を明確にしつつ、納得できない部分がある場合は物件オーナーとの交渉を試みましょう。困ったときは、専門家に相談してみることも大切です。
この記事が、あなたのお役に立てることを祈っています。